最近はブックオフにも行けず、暇をみつけてはサンボーホールの古本市で買ってきた本を読んでいる。
本箱に並んだ本の背を眺めながら、どれにしょうかと悩むのも楽しい。
百目鬼恭三郎(どうめき・きょうさぶろう)の『風の文庫談義』を抜き出し、まず本の後ろの著者の略歴からみる。
大正十五年生まれ、今も生きていれば86歳であるが平成三年に65歳で病没している。
《 朝日新聞社在職中よりゆたかな学識をもとに峻烈無比の批評家として知られ、週刊文春掲載の「風の書評」は一世を風靡。》とある。
本のカバーに書かれている題名の『風の文庫談義』の風が赤字で強調されているのは、この「風の書評」の風から来ているのか。
これだけの知識を得て読み始めたが、たとえば『明治維新三大政治家』池辺三山 中公文庫、次が『山猫』ランペドゥーサ(イタリア) 河出文庫、その次は一つ置いて『隋園食単』袁枚(清朝時代の食通)岩波文庫と、縦横無尽の分野を問わず国を問わずの博識ぶりと、それに裏付けられた歯に衣着せぬ批評に引き込まれていく。
こうして63もの文庫の紹介がされているのだが、
『本屋風情』岡茂雄 中公文庫で、まず岡茂雄はウイキペディアによると
《 日本の編集者、書店主。大正から昭和初頭の日本に於いて、民族・民俗学や考古学専門の書店「岡書院」、山岳書専門の「梓書房」を経営。学術史上の名著となる多くの書籍、雑誌を世に送り出した。》
その回想録である『本屋風情』で岡茂雄は、南方熊楠や金田一京助の俗物ぶりやエゴイズム、この回想録の標的になっている柳田国男の《 明治の官人気質をむき出し 》を披露しているのだが、最後に百目鬼は《 この回想録に描かれている限りでは、新村や考古学者の浜田青陵、形質人類学の足立文太郎などの学究とちがって、政治家風の俗物の趣がある。この点を突っ込んだ柳田の伝記が出たらさぞ面白いだろう。》と日本の民俗学の父もかたなしである。
だからといってすべて百目鬼に首肯している訳ではない。
峻烈な言葉には驚かされるがそのぶん一歩引いてしまうので、そうかなと思うところもあちこちあるが、ここに紹介されていなければ知ることが無かっただろう書物があまりにも多くて、それだけでも私にとって読む価値のある本だと思う。